SSブログ

『黒岩涙香探偵小説選』

 若いころの一時期、黒岩涙香(明治から大正時代にかけて活躍した翻案小説家)を読みまくっていました。
 涙香の翻案作品を初めて読んだのは高校生のときでした。『黒岩涙香傑作選(全3巻)』観光展望社出版部(68)――涙香作品を現代風に書き直したリライト版で、『巌窟王(全2冊)』『噫無情』が共函にはいっています。
 めちゃくちゃ面白かったですねえ。もちろん、原作である『モンテ・クリスト伯』も『レ・ミゼラブル』も読んだことがあり、ストーリーは知っているんですが、それでもなおかつ、まるで別の作品を読んでいるみたいに面白かったんです。
 残念ながらこの3冊、先にも書きましたようにリライト版です。となると――原文で読みたいぞ!
 幸いにして、すぐに『明治大正文學全集 第八巻 黒岩涙香・森田思軒』春陽堂(29)を入手できました。この本には黒岩涙香『巌窟王』と森田思軒『十五少年』が収録されているのです。
 擬古文調の文体に最初は戸惑いましたが、慣れてしまうと、これが何とも心地よいんですね。物語にぐいぐい引き込まれていきます。――もっともっと読みたい!
 桃源社から出ていた復刻版『死美人』(71)や『暗黒星』(72)を読み、さらに熱烈な涙香ファンになります。涙香全作品の梗概を記した伊藤秀雄『黒岩涙香 その小説のすべて』桃源社(71)も隅から隅まで読みました。これは途轍もない労作なんですが、同時に罪作りな本で、欲求不満が募ります。――梗概じゃなくて、ちゃんとした作品を読みたい!
黒岩涙香傑作選.jpg 明治大正文學全集.jpg 暗黒星.jpg 黒岩涙香その小説のすべて.jpg
 当時(現在もですが)、新刊で買える涙香本は少なく、となれば当然、古本を買うしかありません。明治時代に刊行された本は高くて手が出ず、私が買えるような値段で売っている本の多くは、大正時代の縮刷涙香集、そして戦前から戦後にかけての再刊です。それでも何十冊も買い、読むことができました。まさに至福の読書体験でしたね。
島の娘.jpg 涙香傑作集.jpg 幽霊塔.jpg 決闘.jpg
非小説.jpg 大金塊.jpg 黒岩涙香集.jpg 白髪鬼.jpg
 明治時代に刊行された本も少しは持っていますが、そのほとんどは先輩にいただいたものです。たとえば『破天荒』扶桑堂(明治43年)は横田順彌さんに、『噫無情(前・後篇)』扶桑堂(明治38年、39年)は岡田正哉さんにいただきました。いやもう、腰が抜けるほど嬉しかったです。30年以上経った現在でも、あのときの嬉しさは忘れられません。ありがとうございます!
 あ、そうそう。ショートショート専門誌「SFワールド」第2号(83)に「黒岩涙香ラブ・コール」というエッセイも書きました。涙香に関するあれこれです。興味のある方は、どうぞ。
破天荒.jpg 噫無情・前篇.jpg 噫無情・後篇.jpg SFワールド.jpg

 ということで……。
 ようやく記事タイトルの『黒岩涙香探偵小説選(全2巻)』論創ミステリ叢書(06)です。
 上記のような青春時代を送ってきたのですから、涙香の作品はかなり読んでいますが、ほぼ長編ばかりでして、短編は数えるほどしか読んでいません。この2冊は短編集で、ショートショートと言ってもいいような長さの作品も多数収録されています。
黒岩涙香探偵小説選Ⅰ.jpg 黒岩涙香探偵小説選Ⅱ.jpg
 先ほど読了。う~~ん、どうなんでしょう。とりあえず、涙香は長大な作品において、その魅力を最大限に発揮する作家と確認しました。短編もつまらないことはないですが、若かりしころの私を熱狂させた魅力はありません。
 短くてオチがあって、ショートショートとして読める作品もいくつかありましたけれど、微笑ましい(笑)と言いましょうか、厳しい言い方をすれば“陳腐”です。まあ、書かれた時代を考えれば、合格点と言えないこともないですが……。
「萬朝報」紙に「来る五日には……世界第一の短かき小説(字数五百字)『女探偵』と云へるを載せ」との予告の上に掲載されたという「女探偵」も収録されていて、確かに短い(世界第一かどうかは別として)んですが、その内容は……。
 やはり涙香は長編ですね。『巌窟王』『幽霊塔』『噫無情』『鉄仮面』などなど、機会があれば、ぜひ! ぜひ! ぜひ!

【追記】8月10日
 ショートショートの資料を集めるために古本屋を回り始めて以降、若いころに読みたくても読めなかった涙香本が安価で売っていると、思わず買っちゃいます。
 なかでも、『玉手箱』と、これは涙香の翻案ではないんですが、『巌窟王』の続編である『後の巌窟王』(高桑白峯訳。涙香が序文)は嬉しかったですね。前者は函補修本、後者は函欠ですが、こういう本は読めればOKです。もちろん、買ってすぐに読んで、面白かった~!
 ――と【追記】を書こうとしたら、牧くんのコメントが……。
 牧くんからは『幽霊塔・後編』扶桑堂(明治34年)を譲ってもらいましたね。全3冊で、いつかは残りの2冊も買えるかと思っていましたが、いまだにこの1冊だけです。まあ、『幽霊塔』は別版を何冊も持っていますから、今さらどうでもいいですけれど。
玉手箱.jpg 後の巌窟王.jpg 幽霊塔・後編.jpg
女噫無情.jpg
【追記2】
 涙香とは関係ないですが、昨年、水谷準『女噫無情』八紘社(39)なんて本を買いました。“噫無情”だけで、そそられてしまいます(笑)。ちなみに、店頭100円均一コーナー。
 キワモノ、大好きです。
コメント(4) 

コメント 4

牧眞司

高井さんの涙香好きは、当時のSFファンのあいだでは有名でしたものね。涙香の翻案に因んだ団友太郎ってペンネームも使われていたと記憶しています。エドモン・ダンテスを日本人名にしたやつ。
ぼくも『破天荒』は好きだったな。
あっ、この『破天荒』も、高井さん、ご自身が編集したファンジンの題名にしていましたよね。
いろいろ思いだしてきた。
by 牧眞司 (2010-08-10 18:55) 

高井 信

 あはは。牧くんはあのころの私をよく知ってますよね。有名だったか知りませんが、涙香、大好きでした。
>団友太郎ってペンネームも使われていた
 有藻守雄(in『鉄仮面』)も使ったことがあるような……。あのころはいろんなペンネームで書き散らしていました。
>あっ、この『破天荒』も、高井さん、ご自身が編集したファンジンの題名にしていましたよね。
 大学のSF研の会誌ですね。牧くんも会員(笑)。
>いろいろ思いだしてきた。
 旧悪は暴露しないようにしましょう、お互いに。>槇子さん(笑)
by 高井 信 (2010-08-10 19:18) 

牧眞司

うわっ、こちらが高井さんのことを知っているぶん、高井さんもぼくのことを知っているのでした。アセるなあ。
『破天荒』は、ぼくが入学する前だったんじゃないかな。ぼくが入ったあとは『断末魔』でした。これも高井さんのネーミングでしたっけ?
by 牧眞司 (2010-08-10 22:19) 

高井 信

>『破天荒』は、ぼくが入学する前だったんじゃないかな。
 そうだっけ? と先ほど現物チェックをしました。牧くん、原稿を書いていましたよ。
>ぼくが入ったあとは『断末魔』でした。これも高井さんのネーミングでしたっけ?
 はい、そうです。懐かしいですねえ。
 せっかく古い会誌を手にしましたので、記事を書きました。
http://short-short.blog.so-net.ne.jp/2010-08-11
 牧くんも懐かしさに浸ってね。
by 高井 信 (2010-08-11 06:10) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。