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ショートショートと掌編小説

ショートショート
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ショートショート(英:short short story)は短編小説よりも短い小説のこと。長さに規定はないが、およそ原稿用紙8-10枚くらいの作品を指す。さらに短いものは掌編小説と呼ばれる。ジャンルは、SF、ミステリー、ユーモア小説など様々。アイデアとオチに面白みを持たせる傾向がある。星新一やフレドリック・ブラウンが得意とした。

掌編小説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
掌編小説(しょうへんしょうせつ、単に掌編とも)とは、非常に短い小説を指す。掌篇小説と表記されることもある。ショートショートとは、一般により短いという点で区別される。より長い作品の要約や抜粋ではなく、それ自体が単独の物語として完結する。ジャンルは多岐にわたる。
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 以上、ウィキペディアの記述です。
 ショートショートと掌編小説の線引きには、常日頃から頭を悩ませているのですが、まさかショートショートと掌編小説の違いが長さにあったとは、いやはや参りました。これが正しいのでしたら、両者の線引きは簡単、なんですけれども……。

 私は『ショートショートの世界』でショートショートと掌編小説の違いについて書きました(30~31ページ)。単行本化にあたって削った部分も復元して、ここに掲載しようと思いますが、その前に一箇所、元原稿に書かれていたことを復元しておかなければなりません。以下、『ショートショートの世界』26ページの12行目と13行目の間に挿入してください。
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 作家でも、たとえば小池真理子は、自らのショートショート集『第三水曜日の情事』角川文庫(85)の「あとがき」で――

 最近、若い読者を中心にショートショートの読み方が随分変わってきたように思う。「こわいオチ」「不思議なオチ」という、従来のショートショートに要求されていた基本的原則が崩され、短編小説の味わいがあるものに人気が移っているようだ。
 だが私は、どうしても正統派ショートショートの持つ魅力から逃れられない。四百字詰め原稿用紙十枚の中に物語を凝縮させ、しかもオチをつける。うまく成功すれば、さながらパチンコ屋でチューリップが全開した時のような快感を味わうことができるのだ。

 と述べ、入江香のショートショート集『あなたに向く職業 とらばーゆ・サスペンス』集英社文庫(91)の「解説」でも――

 限られた枚数の中では、当然のごとく、細かい風景描写や、人物描写、推理の積み重ねなどはできなくなります。勝負はたった一つ。最後のオチだけ。オチが面白くなかったら、どれほど面白いテーマを扱っていたとしても、それは簡単に失敗作となってしまうのです。

 と述べています。もう完全に、ショートショートの正しい姿は「オチのある短い小説」と思い込んでいるのですね。
 これはまあ極端な例で、私などは「そうかなあ」と首を傾げてしまうのですが、一般の認識からすると、全面的に正しいということになるのかもしれません。
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 これを踏まえた上で、以下をお読みください。『ショートショートの世界』30ページ8行目以降の元原稿版です。(『ショートショートの世界』刊行後の情報も追加してあります)
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 最後に、ショートショートと掌編小説の違いについて述べておきましょう。
 どちらも短い短編小説であり、本来の意味であれば、両者はイコールで結ばれてもいい関係にあります。実際、両者を全く区別して使っていない人もいますし、私もそれでも構わないと思っているのですが、やはり感覚的には、ショートショートと掌編小説は違うものであるという気がします。
 中島河太郎は「ショート・ショート形式は、戦前のコント、掌篇小説、小品の系列に属するが、それに空想科学的要素、結末の意外性などを強調して、新たな領域が拓かれた」(中島河太郎・権田萬治編『犯罪特製メニュー 日本代表ミステリー選集⑨』角川文庫(76)所収の「怪奇幻想小説の系譜」)と述べ、また生島治郎は「かつて、日本では川端康成に代表されるような『掌の小説』あるいは『掌篇小説』と云われるごく短い短篇がもてはやされたが、海外の作品による『ショート・ショート』が紹介されると、そのちがいは歴然としていて、たちまち『ショート・ショート』自体がひとつのジャンルを形成するようになった」(『28のショック』出版芸術社・ふしぎ文学館(93)/双葉文庫(96)の「あとがき」)と述べています。まさに同感です。
犯罪特製メニュー.JPG 28のショック.JPG 28のショック(文庫).JPG
 そこで本書では、「約二十枚以下のアイデア・ストーリー」をショートショートとし、「ショートショートではない約二十枚以下の小説」を掌編小説と区別して書くことにします。あくまでも本書内での使い分けですし、本書内においても、もちろん引用文に関しては、その限りではありません。
 ショートショートの定義を考察した際、小池真理子の意見を引用しました。本書におけるショートショートと掌編小説の使い分けは、(結果的に)その小池真理子の考えに著しく合致していると言えます。
 小池真理子の短い短編小説を収録した作品集には、以下のものがあります。
『第三水曜日の情事』角川文庫(85)
『キスより優しい殺人』勁文社(89)/ケイブンシャ文庫(91)*1編追加。/徳間文庫(99)*ケイブンシャ文庫版と同じ。
『午後のロマネスク』祥伝社(01)/祥伝社文庫(03)
『一角獣』角川書店(03)/角川文庫(06)
『玉虫と十一の掌篇小説』新潮社(06)/新潮文庫(09)
第三水曜日の情事.JPG キスより優しい殺人.JPG キスより優しい殺人(ケイブンシャ文庫).JPG キスより優しい殺人(徳間文庫).JPG
午後のロマネスク.JPG 午後のロマネスク(文庫).JPG 一角獣.JPG 一角獣(文庫).JPG
玉虫と十一の掌篇小説.JPG 玉虫と十一の掌篇小説(文庫).JPG
 ショートショートを数多く含む短編集である『キスより優しい殺人』は別として、著者自身、『第三水曜日の情事』はショートショート集、『午後のロマネスク』『一角獣』『玉虫と十一の掌篇小説』は掌編小説集と、きっちりと分けています。まさにその通りであろうと思います。
 余談ながら、島尾敏雄の掌編小説集『硝子障子のシルエット』創樹社(72)/講談社文芸文庫(89)には副題として“葉篇小説集”と銘打たれています。なかなか洒落た造語ですね。
硝子障子のシルエット.JPG 硝子障子のシルエット(文庫).JPG
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 ウィキペディアの記述に対して、あれこれ言う気はありません。
 ま、そういうことです。

 最後に注釈。
『あなたに向く職業』の作者・入江香は藤田宜永の別名です。この本の続編『女が殺意を抱くとき』徳間書店(02)は藤田宜永名義で出版されました。のちに、この2冊は再編集され、藤田宜永『女が殺意を抱くとき』徳間文庫(06)として出版されています。
あなたに向く職業.JPG 女が殺意を抱くとき.JPG 女が殺意を抱くとき(文庫).JPG
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