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『新電気未来物語』

 石原藤夫『新電気未来物語』栄光出版社(71)を読みました。近未来予見SFです。未来と言っても物語の舞台は21世紀の初めでして、つまり、ほぼ現在になっていますが……。これは近未来小説の宿命ですね。
新電気未来物語.jpg この作品は連作長編の形をとっています。各話は10ページほどと短く、連作ショートショート集と言ってもいいかもしれません。
 石原藤夫は「あとがき」で――

現在勉強中の、あるいは、新進の若いエンジニアの皆様が、未来に対する夢をもつことの重要性を、感じないではいられません。
 本書は、こういった筆者の考えから、とくに、若い電気関係のエンジニアの方々に夢をもっていただくために、科学解説的な意味を含めて書いた、SFストーリーです。

 と書いています。その目的は見事に達成されているのではないでしょうか。
 石原藤夫は小説のなかで、さまざまな提言を行なっています。たとえば、「第三話 極低温送電システム」では――

「いまの地震はマグニチュードでおそらく8をこしているでしょう。それでも事故はなかったのですか」
 アキツはすこし拍子ぬけした声で、たずねた。
 室長はわらっていった。
「いや、もちろん各所で故障はおこったさ。しかし、送電システムにしろ、通信システムにしろ、ひとつのルートでできているのではない。重要なシステムほど、多ルート方式を採用している。だから、一個所が不通になっても、他のルートで電力にしろ情報にしろ、送られてくるのだ。げんにきみ、こうやって各地の被害状況が送られてきており、テレビ電話も、研究所への送電もすぐに復旧してしまったのだからね。すべて多ルート・システムのおかげなんだよ」

 これを読んで、先の地震と原発事故を想起するのは、私だけではないと思います。原発関係者が石原藤夫のような考えの持ち主であったなら……。

          *               *               *

 以下、2009年6月30日の記事「石原藤夫のショートショート」への補遺です。
『海洋未来物語Ⅰ ―海のタイムトラベル―』SF資料研究会・ハードSFブックス(87)
『海洋未来物語Ⅱ ―海のタイムトラベル―』SF資料研究会・ハードSFブックス(87)
 このⅡには巻末に《SFショート集》として6編のショートショートが収録されています。「作品略解」によれば、「付録として付けたSFショートショート6篇は、1971年1月から6月にかけて福島正実さん、光瀬龍さんなどと交代で『公明新聞』に掲載されたものです」とのこと。実に貴重な資料ですね。
 ちなみに、『海洋未来物語』は、「掲載されたのは『科学朝日』の1970年9月号~1971年8月号で全10話12回にわたって連載されました」であり、「一応連作長編としては私の初めての作品(もっとも同じ時期にカッパノベルズから出た厳密な意味では唯一の長篇である『コンピュータが死んだ日』を書いていましたが)」なのだそうです。
『コンピュータが死んだ日』! 懐かしいですねえ。同時進行でこんな作品も書かれていたとは知りませんでした。
海洋未来物語Ⅰ.jpg 海洋未来物語Ⅱ.jpg コンピュータが死んだ日.jpg
コメント(5) 

コメント 5

大熊宏俊

ショートショートは付録で、「海洋未来物語」自体は(連作)長編SFなんですよね。
「新電気未来物語」もそそられますが、私はこちらを読んでみたいです。創元で復刊してくれませんかねえ。あ、復刊じゃなくて新刊ですね。
by 大熊宏俊 (2011-11-22 18:31) 

高井 信

『海洋未来物語』も『新電気未来物語』も、長編といっても短めです。2編合わせて1冊の本にするという手もありますが、『海洋未来物語』の「作品略解」では――
> なお本書は、そのSF的アイディアに関して、私のシリーズものとしては
>もっとも長く続いた『惑星シリーズ』の、初期作品を除く多くの作品の原形を
>成しています。
 と書かれていて、こういうことだと商業出版は難しいかもしれませんね。
by 高井 信 (2011-11-22 23:11) 

公明新聞掲載SS

昭和46年1月1日 公害ノイローゼ 福島正実
昭和46年1月11日 車 眉村 卓
昭和46年1月18日 はたらけはたらけ! 光瀬 龍
昭和46年1月25日 タイム・シェアリング時代 石原藤夫
昭和46年2月1日 夢 福島正実
昭和46年2月8日 地下街で 眉村 卓
昭和46年2月15日 安息よ来たれ 光瀬 龍
昭和46年2月22日 ある帰還者の悲劇 石原藤夫
昭和46年3月1日 ウソ計算機 福島正実
昭和46年3月8日 山 眉村 卓
昭和46年3月15日 あがれない 光瀬 龍
昭和46年3月29日 時間の流れ 石原藤夫
昭和46年4月5日 発作 福島正実
昭和46年4月12日 ツタ 眉村 卓
昭和46年4月19日 くもの巣 光瀬 龍
昭和46年4月26日 砂の男 石原藤夫
昭和46年5月3日 かげの時代 福島正実
昭和46年5月10日 映画 眉村 卓
昭和46年5月17日 ある日虫の姿を見た 光瀬 龍
昭和46年5月24日 同胞 石原藤夫
昭和46年5月31日 話か酔いか 福島正実
昭和46年6月6日 なつかしい工場 眉村 卓
昭和46年6月13日 前略、当社は 光瀬 龍
昭和46年6月20日 ロボットの顔 石原藤夫
昭和46年6月27日 調べ室 福島正実
by 公明新聞掲載SS (2011-11-23 11:03) 

橋本喬木

大学時代の出来事です。
私、古本屋で石原藤夫氏の自費出版かと思われる『電気家具の反乱』確かこんな題名のハードカバー本を見つけたんです。
ちょうどその時、荷物が多くて(持ち合わせもなくて)「今度買おう」って思ってそのまま帰ったんですが、
次の日に行ったら、売れてなくなってしまってたんです。
すごく残念でした。

その時一度見たきりなので、本の題名が定かではないのですが・・・
もしかしたら、この本だったのかなぁ~
by 橋本喬木 (2011-12-05 14:24) 

高井 信

 石原さんはSF図書目録や雑誌のインデックス類を中心に、数多くの本を自費出版されています。私もそのすべてを把握しているわけではありませんが、『電気家具の反乱』なんて本はないと思いますよ。
 ただ、もしそんな本が本当にあるのでしたら、ぜひ読みたいですね。面白そう(笑)。
by 高井 信 (2011-12-05 16:02) 

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