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ジョークと小咄

 昨日の記事で、フランス小咄「とんでもない処」を採り上げました。
『ショートショートの世界』の元原稿には、ショートショートと近い作品形態である掌編小説、コント、ジョークと小咄、超短編に関する考察もありました。これらの作品群とショートショートはどう違うか、私なりの考えを述べたものです。
 単行本として出版するにあたっては、迷った末に全面カットしました。これは、紙幅の問題もありますが、ちょっと独善的すぎるかなという危惧もあったためです(特に超短編に関して)。
 昨日からの流れということで、今回は「ジョークと小咄」の部分だけ復活させておくことにします。
          *               *               *
◆ジョークと小咄
 ショートショートとの違いを考える前に、両者の違いを明確にしなければならないわけですが、私としては、ジョークは西洋風、小咄は和風で、まあ同じようなものと考えています。
 ここで、ショートショートを得意とする作家たちがエッセイなどで採り上げていた小咄(ジョーク)を紹介してみましょう。各作家の趣味・嗜好が窺えて、大変に興味深いです。

・星新一
きまぐれ博物誌.JPG ひとりの気ちがいが、長いヒモを引きずって歩いていた。警官が呼びとめてたずねた。
「そんなものを引きずって、何をしているのですか」
「透明人間をさがしているのです」
「さがしてどうするのですか」
「この引っぱっている犬をかえしてやろうと思いましてね」
――『きまぐれ博物誌』河出書房新社(71)/『きまぐれ博物誌・続』角川文庫(76)に収録の「SFの短編の書き方」より。*角川文庫版は続編というわけではなく、河出書房新社版の2分冊。

・都筑道夫
とっておきのいい話.JPG 単身、旅に出ることになったアーサー王、妃グィネヴィアの身持が心配で、特製の貞操帯をはめる。外部から異物が侵入しようとすると、ギロチンのごとく、刃がおりてくる貞操帯だ。旅から帰った王を出むかえたのは、笑顔の王妃とランスロット卿だけ。ほかの円卓の騎士たちは、ひとり残らず病床に伏している、と聞いたアーサー王、ため息をついてから、「卿よ、すまぬ。余はそちを、もっとも疑っておったのだ」というと、ランスロット卿は口をひらいて、答えようとした。だが、声は出ない。ものがいえなくなっていたのだ。
――週刊文春編『とっておきのいい話』発行ネスコ・発売文藝春秋(86)/文藝春秋編『とっておきのいい話 ニッポン・ジョーク集』文春文庫(89)より。

・筒井康隆
暗黒世界のオデッセイ.JPG 精神病院で。
 患者A「おれはナポレオンだ」
 患者B「そんなこと、誰がきめた」
 患者A「神様がきめた」
 この、問答を聞いていた患者C「おれはそんなこと、きめたおぼえはない」
――『暗黒世界のオデッセイ』晶文社(74)/新潮文庫(82)に収録の「乱調人間大研究」より。

・小松左京
とっておきのいい話(文春文庫).JPG ある男がノミの研究をしていた。男はまず、ノミの足を一本ちぎり、「跳べ!」と命じた。ノミは跳んだ。次に、二本ちぎって、「跳べ!」とさけんだ。やはり、ノミは跳んだ。
 今度は、足を全部ちぎりとって「跳べ!」と命令した。が、ノミは微動だにしない。男はノミの研究報告の中に次のように書きこんだ。
「ノミは、全部足をちぎられると耳がきこえなくなるらしい」
――週刊文春編『とっておきのいい話』発行ネスコ・発売文藝春秋(86)/文藝春秋編『とっておきのいい話 ニッポン・ジョーク集』文春文庫(89)より。

 最後のノミの話は、実は私も大好きな小咄のひとつです。最初にどこで読んだのか記憶にありませんが、おそらく何かの雑誌の小咄コーナーだったと思います。
 この小咄はよく知られているようで、石川喬司のショートショート「超能力アリ」(『絵のない絵葉書』毎日新聞社(86)/『絵のない絵はがき』集英社文庫(91)に収録)に引用されていますし、ビートたけし編著『恐怖びっくり毒本』KKベストセラーズ・ワニの本(83)にも、「残酷研究レポート」として、この小咄をアレンジした話が載っています。本文だけではなくカバー袖にも掲載してあるくらいですから、かなりの自信作なのでしょう。
 こういった小咄は、確かにショートショート的なエッセンスを含んで、私も非常に好きなのですが、やはり小説とは言いがたいです。短いとはいえ、ショートショートは小説なのですから。
 ショートショートとジョークや小咄との違いも、やはりコントと同じく、明確な線引きは難しいです。たとえば、金子登の『怪異こばなし集―ジョーク・オカルトの世界―』高文社(75)や『お笑い不思議話』角川文庫(88)は小咄集なのですが、ショートショートとして読めるものも多数収録されています。ショートショート(小説)か小咄か、その線引きは、それぞれの感覚で判断してもらうしかないと思います。
 都筑道夫と小松左京のジョークを紹介した『とっておきのいい話』は、著名人たちの好きなジョークを集めた本です(特筆すべきは星新一で、なんと自作を披露!)。非常に面白いジョークが目白押しで、お勧めしておきます。
絵のない絵葉書.JPG 恐怖びっくり毒本.JPG 怪異こばなし集.JPG お笑い不思議話.JPG
 なお、ショートショートの名手・阿刀田高はブラック・ジョーク作りの名手でもあり、以下のようなジョーク集もあります。
『ブラック・ユーモア入門』KKベストセラーズ・ワニの本(69)/『〈改稿新版〉ブラック・ユーモア入門』KKベストセラーズ・ワニの本(79)
『阿刀田高のブラック・ジョーク大全』講談社(80)/『ブラック・ジョーク大全』講談社文庫(83)/『新装版 ブラック・ジョーク大全』講談社文庫(07)
ブラック・ユーモア入門.JPG ブラック・ユーモア入門(改訂版).JPG ブラック・ジョーク大全.JPG

 ここでひとつ、少しばかり驚いた発見を――
 フレドリック・ブラウンに「回答」というショートショートがあります。著作権の問題があって引用はできないのですが、有名な作品ですから、お読みになった方も多いと思います。『フレドリック・ブラウン傑作集』サンリオSF文庫(82)、『天使と宇宙船』創元推理文庫(65)などに収録されていますので、未読の方は、ぜひ読んでみてほしいのですが、とりあえず簡単に内容を紹介しますと――
 九百六十億の星に人類が居住する時代。その各星には中央コンピュータがあり、そのすべてを亜空間によって集中接続させると、銀河系すべての知識を所有することができると考えた人々は、それを実行に移した。代表者がコンピュータに問う。「神は存在しますか」。すると、すぐさま答えが返ってきた。「そのとおり。いまや確実に存在する」
 という作品です。
 で、何に驚いたかと言いますと、磯村尚徳編著『フランス・ジョーク集』実業之日本社(76)を読んでいたら、次のようなジョークが紹介されていたのです。こちらは作者名もはっきりしないジョークですから、全文引用をしても問題はないでしょう。

   コンピュータ
フランス・ジョーク集.JPG 三〇年かかって世界一のコンピュータができあがった。科学上の知識がすべて組み込んであり、未解決の問題にすべて答えるはずだった。運転開始の式があり、一〇〇人近い関係者がこの機械のまわりをとりまいていた。彼らは問題の中の問題の回答を求めることにした。“神は存在するか”というのである。
 一分後、コンピュータはいった。
「存在スル。イマヤ、ワタシガ神デアル!」

 どうです? 長さの違いこそあれ、全く同じ内容ではありませんか(ブラウンの「回答」は、翻訳では原稿用紙約二枚です)。
 しかし、にもかかわらず、片やショートショートで、片やジョークとされているのです。いったいどちらが先なのか気になるところではありますが、それはともかく、ことほど左様にショートショートとジョークの区別は難しいということです。
 ただひとつ確実に言えるのは、基本的に、ショートショートは“読む(書く)”ものであり、ジョークや小咄は“聞く(語る)”ものである――ということでしょうね。
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 以上です。
 ショートショートとの違いとか関係なく、ジョークや小咄、好きですねえ。元原稿で挙げた以外にも、好きなジョーク集はたくさんあります。たとえば、常盤新平編『パーティ ジョーク(全2巻)』集英社文庫(83)。私好みのジョークがてんこ盛りです。
パーティジョーク1.JPG パーティジョーク2.JPG

 最後に、この記事とは関係ありませんが――
 久しぶりに筒井康隆『暗黒世界のオデッセイ』を手に取り、あららららら……。筒井康隆自身によるショートショートのマンガ化作品が大量に収録されているではありませんか。すっかり失念していて、6月5日の記事「ショートショートのマンガ化」では採り上げることができませんでした。大失敗です。これから記事を修正してきます。
 なお、新潮文庫版は晶文社版を大幅に再編集したものであり、収録作品はずいぶん違っています。
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