ジョークのショートショート化
別に連載する気はないのですが……。
昨日の記事で、フレドリック・ブラウンのショートショート「回答」と同内容のフランス・ジョークを紹介しました。この例に限らず、ショートショートとジョーク(小咄)との線引きは難しいですね。ショートショートに分類してもいいようなジョークはたくさんありますし、書き方によってはショートショートになるジョークも多いです。
かつて私は、とある本で読んだジョークをショートショート化してみたことがあります。
百聞は一見にしかず。――ここに掲載しますので、まずは読んでみてください。
* * *
占い
会社からの帰宅途中、道路脇でひっそりと営業をしている占い師に気がついた。フードを深く被っているので、はっきりとはわからないが、かなり高齢の女性のようだ。黒い布を被せた台の上に、大きな水晶球が載っている。
ちょっぴりアルコールがはいっていることもあり、軽い気持ちで、
「当たるのかい?」
と声をかけてみたら、
「はい、百発百中でございます」
占い師は静かな口調で答えた。まあ、そうだろう。「当たるか?」と問われて「当たりません」と答える占い師など、いるわけがない。
「占ってもらってもいいけど、あんたの実力、わからないからなあ」
私が言うと、
「お疑いなら、一点だけ、無料で占って差し上げますよ」
占い師は気を悪くする様子もなく、申し出てきた。よほど自信があるのか、それとも……。
「ほう、お試しってわけか。なかなか良心的じゃないか。無料ってことなら、占ってもらおうかな。それが当たってたら、ちゃんと料金を払って、占ってもらうことにするよ」
私は言い、用意されている小さな椅子に坐った。
「何を占いましょうか?」
「そうだなあ……。私の家族構成、なんてのはどうだい?」
と私。これなら、あやふやなことを言っても、たちどころに看破できる。
すると、
「わかりました」
占い師は答え、台の上の水晶球に手をかざした。ややあって、口を開く。
「あなたのご両親は、死んでいませんね?」
それを聞いた途端、私は思わず笑いそうになった。
「いや、死んでいる」と答えれば、「ですから、『死んで、いませんね?』と言ったのです」と言い、「いや、生きている」と答えれば、「ですから、『死んでいませんね?』と言ったのです」と言うのである。
これなら、私の両親が死んでいようと生きていようと、どちらも正解ということになる。――有名な言葉のトリックだった。
「そいつは駄目だよ。死んでいるのか、生きているのか、はっきり言ってくれよ」
私が言うと、
「ご存命でいらっしゃいます」
占い師は平然と答えた。
確かに当たっているが、私くらいの年齢(ちなみに、三十五歳だ)では、ほとんどの人はまだ両親が健在だろう。私でも、それくらいのことは言える。
私がそれを指摘すると、
「それでは」
と占い師は、ふたたび水晶球に手をかざした。
「あなたのお子様は二人……。そして、奥様は三人姉妹の末っ子でございます」
「はあ?」
またも、私は笑いそうになった。
私に痛いところを衝かれ、誤魔化しは効かないと思ったからだろうが、いいかげんにも程がある。
「残念でした。子どもは三人だし、カミさんには姉さんが一人いるだけ――つまり二人姉妹だよ。なーんだ、全然当たらないじゃないか」
私は笑いをこらえながら言い、
「そんな腕前では、金を払って占ってもらう気はしないな」
と椅子から立ち上がる。
「じゃあ、商売、頑張ってね」
私は手を振り、占い師の元を離れたのだった……。
帰宅すると、三人の子どもが出迎えてくれた。
「パパァ」
と首にしがみついてくる。
長女六歳、次女四歳、長男三歳。――かわいらしい盛りだ。
「ただいま」
三人の頬にキスをし、お土産のケーキを渡す。
やや遅れて妻も姿を現わし、
「あなた、お帰りなさい」
と優しい笑みで出迎えてくれた。
「ただいま」
ネクタイを緩めながら、
「そう言えばさあ」
と先ほどの占い師のことを話し始める。
「さっき、占い師に占ってもらったんだけどね、おまえは三人姉妹の末っ子だってさ。笑っちゃうだろ」
当然、妻からは、「占いなんて、当たるわけないじゃない」というような反応が返ってくると思っていた。ところが……。
「え? 占いで、そんなことまでわかるの?」
妻は驚きの表情を浮かべた。
「は? なに言ってんだ? おまえ、姉さんが一人いるだけだろ。二人姉妹じゃないか」
問い返す私に、
「そういうことになっているけれど、本当は、あたし、三人姉妹の末っ子なの」
妻が答える。
「はああ?」
今度は私が驚きの声を発する番だった。
「だ、だって、おまえ……」
「一番上の姉さん、生まれてすぐに死んじゃったんだって。母さんに聞いたことがあるわ」
「ほ、ほんとかよ……」
予期せぬ展開に、私は呆然と呟いた。と同時に、頭のなかが目まぐるしく回転し始める。
今の今まで、あの占い師はいいかげん――口からデマカセを言っているだけだと信じこんでいた。だが、デマカセならば、「三人姉妹の末っ子」などと、当たる確率の低いことは言わないだろう。もっと無難なことを口にするはずだ。
にもかかわらず、あえてそう言ったということは……。
(あの占い師の力は、本物……?)
私は妻を見つめ、そして、お土産のケーキに歓声を上げている子どもたち――三人の子どもたちに目をやった……。
* * *
いかがでしょうか。出来はともかくとして、これはもう明らかにジョークではなくショートショートです。
このショートショートの元となったのは奥成達『怪談のいたずら2 ヒンヤリの恐怖を楽しむ本』ワニ文庫(90)に載っていたジョークです。
占い師が男にいった。
「あなたは三人の子のお父さんです」
「だめな占い師だな。いいか。おれは四人の子の父親なんだよ」
占い師はいい返した。「それは、あなたがそう思っているだけです」
私は違うと思いますが、これもショートショートと見る人もいるかもしれませんね。
この記事の冒頭にも書きましたように、ショートショートとジョーク(小咄)の区別は難しいです。明確な線引きは不可能でしょうね、きっと。
昨日の記事で、フレドリック・ブラウンのショートショート「回答」と同内容のフランス・ジョークを紹介しました。この例に限らず、ショートショートとジョーク(小咄)との線引きは難しいですね。ショートショートに分類してもいいようなジョークはたくさんありますし、書き方によってはショートショートになるジョークも多いです。
かつて私は、とある本で読んだジョークをショートショート化してみたことがあります。
百聞は一見にしかず。――ここに掲載しますので、まずは読んでみてください。
* * *
占い
会社からの帰宅途中、道路脇でひっそりと営業をしている占い師に気がついた。フードを深く被っているので、はっきりとはわからないが、かなり高齢の女性のようだ。黒い布を被せた台の上に、大きな水晶球が載っている。
ちょっぴりアルコールがはいっていることもあり、軽い気持ちで、
「当たるのかい?」
と声をかけてみたら、
「はい、百発百中でございます」
占い師は静かな口調で答えた。まあ、そうだろう。「当たるか?」と問われて「当たりません」と答える占い師など、いるわけがない。
「占ってもらってもいいけど、あんたの実力、わからないからなあ」
私が言うと、
「お疑いなら、一点だけ、無料で占って差し上げますよ」
占い師は気を悪くする様子もなく、申し出てきた。よほど自信があるのか、それとも……。
「ほう、お試しってわけか。なかなか良心的じゃないか。無料ってことなら、占ってもらおうかな。それが当たってたら、ちゃんと料金を払って、占ってもらうことにするよ」
私は言い、用意されている小さな椅子に坐った。
「何を占いましょうか?」
「そうだなあ……。私の家族構成、なんてのはどうだい?」
と私。これなら、あやふやなことを言っても、たちどころに看破できる。
すると、
「わかりました」
占い師は答え、台の上の水晶球に手をかざした。ややあって、口を開く。
「あなたのご両親は、死んでいませんね?」
それを聞いた途端、私は思わず笑いそうになった。
「いや、死んでいる」と答えれば、「ですから、『死んで、いませんね?』と言ったのです」と言い、「いや、生きている」と答えれば、「ですから、『死んでいませんね?』と言ったのです」と言うのである。
これなら、私の両親が死んでいようと生きていようと、どちらも正解ということになる。――有名な言葉のトリックだった。
「そいつは駄目だよ。死んでいるのか、生きているのか、はっきり言ってくれよ」
私が言うと、
「ご存命でいらっしゃいます」
占い師は平然と答えた。
確かに当たっているが、私くらいの年齢(ちなみに、三十五歳だ)では、ほとんどの人はまだ両親が健在だろう。私でも、それくらいのことは言える。
私がそれを指摘すると、
「それでは」
と占い師は、ふたたび水晶球に手をかざした。
「あなたのお子様は二人……。そして、奥様は三人姉妹の末っ子でございます」
「はあ?」
またも、私は笑いそうになった。
私に痛いところを衝かれ、誤魔化しは効かないと思ったからだろうが、いいかげんにも程がある。
「残念でした。子どもは三人だし、カミさんには姉さんが一人いるだけ――つまり二人姉妹だよ。なーんだ、全然当たらないじゃないか」
私は笑いをこらえながら言い、
「そんな腕前では、金を払って占ってもらう気はしないな」
と椅子から立ち上がる。
「じゃあ、商売、頑張ってね」
私は手を振り、占い師の元を離れたのだった……。
帰宅すると、三人の子どもが出迎えてくれた。
「パパァ」
と首にしがみついてくる。
長女六歳、次女四歳、長男三歳。――かわいらしい盛りだ。
「ただいま」
三人の頬にキスをし、お土産のケーキを渡す。
やや遅れて妻も姿を現わし、
「あなた、お帰りなさい」
と優しい笑みで出迎えてくれた。
「ただいま」
ネクタイを緩めながら、
「そう言えばさあ」
と先ほどの占い師のことを話し始める。
「さっき、占い師に占ってもらったんだけどね、おまえは三人姉妹の末っ子だってさ。笑っちゃうだろ」
当然、妻からは、「占いなんて、当たるわけないじゃない」というような反応が返ってくると思っていた。ところが……。
「え? 占いで、そんなことまでわかるの?」
妻は驚きの表情を浮かべた。
「は? なに言ってんだ? おまえ、姉さんが一人いるだけだろ。二人姉妹じゃないか」
問い返す私に、
「そういうことになっているけれど、本当は、あたし、三人姉妹の末っ子なの」
妻が答える。
「はああ?」
今度は私が驚きの声を発する番だった。
「だ、だって、おまえ……」
「一番上の姉さん、生まれてすぐに死んじゃったんだって。母さんに聞いたことがあるわ」
「ほ、ほんとかよ……」
予期せぬ展開に、私は呆然と呟いた。と同時に、頭のなかが目まぐるしく回転し始める。
今の今まで、あの占い師はいいかげん――口からデマカセを言っているだけだと信じこんでいた。だが、デマカセならば、「三人姉妹の末っ子」などと、当たる確率の低いことは言わないだろう。もっと無難なことを口にするはずだ。
にもかかわらず、あえてそう言ったということは……。
(あの占い師の力は、本物……?)
私は妻を見つめ、そして、お土産のケーキに歓声を上げている子どもたち――三人の子どもたちに目をやった……。
* * *
いかがでしょうか。出来はともかくとして、これはもう明らかにジョークではなくショートショートです。
このショートショートの元となったのは奥成達『怪談のいたずら2 ヒンヤリの恐怖を楽しむ本』ワニ文庫(90)に載っていたジョークです。
占い師が男にいった。
「あなたは三人の子のお父さんです」
「だめな占い師だな。いいか。おれは四人の子の父親なんだよ」
占い師はいい返した。「それは、あなたがそう思っているだけです」
私は違うと思いますが、これもショートショートと見る人もいるかもしれませんね。
この記事の冒頭にも書きましたように、ショートショートとジョーク(小咄)の区別は難しいです。明確な線引きは不可能でしょうね、きっと。
2009-07-02 08:25
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