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『つぎはぎプラネット』こぼれ話

『つぎはぎプラネット』は最後の最後まで、さまざまな検討を続けていました。
 本書冒頭「SF川柳・都々逸 101句」に収録されている1句に関しても、土壇場で生まれた、ちょっとドラマチックなエピソードがあります。解説には書けなかったので、ここで披露することにしましょう。

 本書で、星新一さんの雅号は「笑兎」としました。しかし、こう結論するにも紆余曲折があったのです。
 念頭にあったのは、本書巻末の「星新一ショートショート全作品読破認定証」のイラストです。笑っている兎――すなわち「笑兎(ショート)」の下に小さく「2」と添えられています。
 星さんの雅号は「笑兎2」なのかなと判断し、そのまま作業を続けていたのですが、何か心に引っかかります。
「SF川柳~」は、特に明記はされていませんが、実は「星マリナ選」です。マリナさんがテキストとして使われたのは単行本『SF川柳傑作選』徳間書店(87)だけで、掲載誌はノーチェックのはず……。
 念のため、川柳の座談会が掲載されている「SFアドベンチャー」をチェックしてみたところ、驚くべき事実が判明したのです。
・「SFアドベンチャー」1980年2月号
 タイトルページで、星さんの雅号は「神一」と記載。短冊(直筆)の写真も掲載されていて、そこにも「神一」。(この雅号は忘れていました)
・「SFアドベンチャー」1984年2月号
 タイトルページで、星さんの雅号は「笑兎」と記載。しかしながら、色紙(直筆)の写真も掲載されていて、そこには「笑兎2」。
・「SFアドベンチャー」1984年6月号
 タイトルページで、星さんの雅号は「笑兎」と記載。短冊(直筆)の写真も掲載されていて、そこにも「笑兎」。
1980年2月号(短冊).jpg 1984年2月号(色紙).jpg 1984年6月号(短冊).jpg
 これらを確認した上で、最終的に「笑兎」としたのですが、「ちょっとドラマチックなエピソード」というのは、このあとの展開です。
 こういった検証の過程で、「こんなふうになってますよ」と、マリナさんと担当編集さんに当該ページをスキャンして送ったのですね。
 するとマリナさん、「1984年6月号の短冊に書かれている“核兵器 使わなければ 粗大ゴミ”って、読んでないような気がする。これ、単行本に収録されていないのでは?」。
 調べてみると、確かにその通り。本文中ではこの川柳に関する発言はなく、短冊の写真のみでした。単行本では写真はカットされていて……。
「これ、気に入ったので、作品を差し替えます」とマリナさん。まさに瓢箪から駒!
 このときすでに7月上旬だったか中旬だったか。ゲラ校正をしている最中の出来事でした。
 楽しいエピソードなので解説に書き加えたい衝動に駆られましたが、これを書くと、大幅に枚数が増えてしまいます。この段階では厳しいかなと考え、断念しました。
 ここで披露でき、すっきりしています。ブログやってて、よかった~(嬉)。
コメント(7) 

コメント 7

山本孝一

「つぎはぎプラネット」の最終段階でこのようなことがあったとは私も知りませんでした。
「SFアドベンチャー」は読んでましたが、星さんの雅号が「神一」や「笑兎」だったこともまったく忘れておりました。
「笑兎2」も完全に忘れてました。
思わず「キョンキョン」を連想しました。
「キョンキョン」ならぬ「ピョンピョン」というところでしょうか。
しかしこれらの短冊や色紙は残っていないのでしょうか。
現物を見たいものです。
こぼれ話がまだありましたら、ぜひご披露ください。
by 山本孝一 (2013-08-29 21:04) 

高井 信

 色紙や短冊、私も見たいですねえ。遺品のなかになければ、徳間書店に残っているか、あるいは担当編集さんが保管しているか。
{SFアドベンチャー」誌には星さんだけではなくて、小松左京さん、筒井康隆さん、豊田有恒さん、橫田順彌さん、かんべむさしさんの色紙や短冊も掲載されています。
 まさにお宝ですね。
by 高井 信 (2013-08-29 22:38) 

橋本喬木

『つぎはぎ・・・』少しずつ、楽しませていただいております。
これで本当に最後かと思うと、読み終わるのが、もったいない!

そして、裏話を聞かせていただき、ありがとうございます。

それにしても、来たかネッシーの色紙、ステキですねぇ。

by 橋本喬木 (2013-08-30 09:17) 

笛地静恵

色紙や短冊などの追跡調査は、なされているのでしょうか?
星マリナさんでさえ、知らない作品があるとは。

今ならば、星さんの通っていた店や足取りのいろいろも、追えるのでは?

黄色くなって、読めなくなりそうな色紙が、どこかの店の壁に貼られていないでしょうか?

すみません。ファンとして不安になりました。
by 笛地静恵 (2013-08-30 18:31) 

高井 信

 橋本さん。
>これで本当に最後かと思うと、読み終わるのが、もったいない!
 第2弾の準備中だったりして。――あ、ウソです。
 さすがに、この次はないと思います。じっくりと楽しんでくださいね。

 笛地さん、いらっしゃいませ。
>色紙や短冊などの追跡調査は、なされているのでしょうか?
 さあ、どうなんでしょうか。そういうのは私の管轄ではないので……。
 忘れたころにマリナさんから、「こんなの出てきた」と連絡があるかも(笑)。
by 高井 信 (2013-08-30 20:13) 

橘まるみ

 笛地静恵嫗には、SFファン交流会でお世話になっています。
「今ならば、星さんの通っていた店や足取りのいろいろも、追えるのでは?」
 については、そういう提案があるのでしたら、人なんか当てにせずに、自分が先頭に立って追えばいいわけですね。
 ショートショートの広場出身のショートショート研究家、宮本晃宏先生も追っていて、
「ストーカー作家」
 と呼ばれていました。
 宮本晃宏先生に対するストーカー作家は、ほめ言葉として解しています。
 星新一先生の終戦の日の詳しい足取りは、
 小林よしのり「ゴーマニズム宣言SPECIAL 昭和天皇論」(幻冬舎)
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0%E5%AE%A3%E8%A8%80SPECIAL-%E6%98%AD%E5%92%8C%E5%A4%A9%E7%9A%87%E8%AB%96-%E5%B0%8F%E6%9E%97-%E3%82%88%E3%81%97%E3%81%AE%E3%82%8A/dp/4344017951 )
 でも、数ページの漫画になっています。
 私も、日本交通公社の復刻版時刻表で、星新一先生の新婚旅行列車のタイム・テーブルを調べた事があります。
 ショートショートの広場の田中昌仁先生が持っているという、色紙を紹介しておきます。
 http://members.jcom.home.ne.jp/tana-masa/essais/hoshishin.htm
by 橘まるみ (2013-08-31 13:41) 

高井 信

 星マリナさんが星新一公式サイトの「ごあいさつ」を更新されています。タイトルは「没後のまほう」。
http://www.hoshishinichi.net/greeting/
『つぎはぎプラネット』に対する思いやエピソードが綴られていて、これが実に素晴らしい。マリナさんならではの視点で、私の解説を見事に補完してくれています。
 某作品に関するエピソードも興味深いのですが、思い切りネタバレしていますので、「ごあいさつ」を読むのは『つぎはぎプラネット』を読まれてからのほうがいいかも。
 ともあれ、お勧めです。
by 高井 信 (2013-09-06 09:06) 

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