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『毛蟲の舞踏會』

 最近、古~い本(終戦前に発行された本)を読むことが多いです。2日前に記事に書いた『現代ブラジル文學代表作選』も、そのうちの1冊です。
 ほかにどんな本を読んでいたかというと……。
 たとえば、堀口大學編訳『毛蟲の舞踏會』青磁社(43)です。
毛蟲の舞踏會(青磁社).jpg 動物をテーマにしたフランス・コントを集めたアンソロジーでして、収録されているのは15編。ほとんどの作品はショートショートと言ってもいい長さです。
 内容的には、小説というより寓話に近い作品もあり、ショートショートと言えるか微妙な作品が多いですけれども、とにかく短い短編小説集ですから、広義のショートショート・アンソロジーとは言えますね。
 また、ジュール・シュペルヴィエルの作品が巻末に4編も並び、それだけでもここで紹介する価値があると思います。(ちなみに、複数の作品が収録されているのはシュペルヴィエルだけです)
 実は、この本は書誌的に興味深い点があります。内容よりも、そちらを紹介したくて、記事を書くことにしました。

 この本の初版は1943年(昭和18年)に青磁社から発行されました。それはいいんですが、問題は1946年(昭和21年)に発行された札幌青磁社版です。これ、第3刷となっていますが、どうやら初刷や2刷はなく、いきなり3刷からスタートした模様。
毛蟲の舞踏會(札幌青磁社).jpg 青磁社と札幌青磁社は、会社の移転(東京から札幌へ)に伴って社名変更されただけで、同じ会社のようです。青磁社版が2刷まで出て、それを引き継ぐ形で札幌青磁社版が発行されたものと思われますが、内容は同じとはいえ、表紙デザインや版組はまるっきり違っていて、ページ数にしても、青磁社版は307ページなのに、札幌青磁版は235ページ。――はっきり言って、別の本です。
 にもかかわらず、奥付を引き継いでしまっているという……。なんらかの理由で(時代が時代ですから、たぶん戦争で)紙型を失い、新たな紙型で発行したものと推測されますが、いいかげんですねえ(笑)。
 2刷は未入手、現物未確認です。初刷や3刷と、また違った体裁の本だったりして……。いや、それはないと思いますけれど、完全には否定しきれません。
 この時代、大らかというか杜撰というか、こういったことは珍しくなかったようです。

毛虫の舞踏会(講談社).jpg 1979年(昭和54年)には講談社から4編を増補した『毛虫の舞踏会』が刊行されました。増補されたのはシュペルヴィエル2編、シャルル・ルイ・フィリップ1編など(全19編のうち、シュペルヴィエル作品が6編!)。戦前の本ではないかと見紛うようなデザインが、いい味を出しています。
 あ、そうそう。
 講談社版のあとがきには「本書『毛虫の舞踏会』初版は昭和十八年二月十日、札幌青磁社発行」と書かれていますが、もちろん「青磁社」の間違いです。いやはや、どこまでもいいかげんなこと(笑)。
 なお、この本も『現代ブラジル文學代表作選』と同じく、『堀口大學全集 補巻2』小澤書店(84)/日本図書センター(01)に収録されています。(青磁社版、札幌青磁社版の相違についても解説されていますが、この記事と同様に「推察」です)

 あまりマニアックなことは書かないよう心がけているつもりですが、今回の記事はマニアックですね。まあ、たまには……。
 こういう調査、けっこう大変なんですよ~。
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