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シャルル・ルイ・フィリップの短編集

 ここしばらく、断続的にではありますが、シャルル・ルイ・フィリップの調査を行なっていました。この名前を聞いて懐かしく思うのは、私より少し上の世代の方々でしょうか。
 フィリップはフランスの作家で、35歳という若さでこの世を去りました。1874年生まれ、1909年歿。
 晩年の1908年9月6日から1909年9月21日まで、パリの新聞「ル・マタン」に計49編のコント(短編小説)を書き、歿後、それらを中心とした2冊のコント集が刊行されました。日本では、2冊とも大正時代から翻訳紹介され、人々に親しまれていたようです。
 フィリップのコントはショートショートというよりも掌編小説で、正直なところ私の好みではありませんが、ショートショート史上、重要な作家であることは間違いないでしょう。
 ということで、この2冊の邦訳書リストを掲載します。
 邦訳書にはさまざまな邦題がつけられていますが、この記事では便宜的に『小さな町で』、『朝のコント』としました。また、収録作品の異同が非常にややこしいので、内容別、訳者別に分けました。

◆『小さな町で』の完訳(原書の全28編を収録)
『小さな町』新潮文庫(34)
『小さな町』河出書房・市民文庫(53)
 以上2冊、小牧近江訳。市民文庫版は未入手ですが、現物確認はしています。
『小さき町にて』岩波文庫(35)
『小さき町にて』高桐書院(47)
『小さき町にて』岩波文庫(51)*再刊
 以上3冊、淀野隆三訳。『小さな町で』全28編に加えて、原書には収録されていないという「序 小さき町」も収録。岩波文庫の戦前刊行版は未入手です。
『小さな町で』みすず書房・大人の本棚(03)
 山田稔訳。『小さな町で』全28編以外に『朝のコント』より5編を収録。
小さな町(新潮文庫).jpg 小さき町にて(高桐書院).jpg 小さき町にて(岩波文庫).jpg 小さな町で(みすず書房).JPG

◆『小さな町で』の抄訳
『小さな町』新潮社・海外文学新選(25)
 小牧近江訳。全28編のうち13編を収録。
『ビュビュ・ドゥ・モンパルナッス』新潮社・現代佛蘭西文藝叢書(26)
『ビュビュ・ド・モンパルナッス』角川文庫(54)
 以上2冊、井上勇訳。角川文庫版は未入手ですが、現物確認済みです。表題の『ビュビュ・ドゥ・モンパルナッス』(角川文庫版では『ビュビュ・ド・モンパルナッス』)に、『小さな町で』より6編を併録。
『弟 フィリップ短篇集1』第三書房(59)
 秋山晴夫編。現物未確認で内容不詳ですが、『小さな町で』の抄訳ではないかと推測しています。総ページ数(53ページ)からして、収録されているのは4~5編と思います。第2巻以降が刊行されているかは不明。
『フィリップ傑作短篇集』福武文庫(90)
 山田稔訳。『小さな町で』より23編、『朝のコント』より9編を収録。
小さな町(海外文学新選).jpg ビュビュ・ドゥ・モンパルナッス.jpg フィリップ傑作短篇集(福武文庫).jpg

◆『朝のコント』の完訳(原書の全24編を収録)
『シャルル・ルヰ・フィリップ短篇集』近代文明社(23)
『フィリップ短篇集』第一書房(28)
『フィリップ短篇集』春陽堂・世界名作文庫(32)
『娘の嫉妬』新潮文庫(39)
『フィリップ短篇集』ゆまに書房・昭和初期世界名作翻訳全集(08)
 以上5冊、堀口大學訳。ゆまに書房版は現物未確認ですが、世界名作文庫の復刻版とのことで、内容は同じでしょう(新刊で買えますけど、定価4515円! とても手が出ません)。
『ビュビュ・ド・モンパルナス 朝のコント』講談社文庫(72)
 堀口大學訳。『ビュビュ・ド・モンパルナス』と『朝のコント』全24編の合本。
『朝のコント』岩波文庫(61)
 淀野隆三訳。
フィリップ短篇集(近代文明社).jpg フィリップ短篇集(第一書房).jpg フィリップ短篇集(世界名作文庫).jpg 娘の嫉妬(新潮文庫).jpg
朝のコント(講談社文庫).JPG 朝のコント(岩波文庫).JPG

◆『朝のコント』の抄訳
『獅子狩』山本書店・山本文庫(36)
 堀口大學訳。現物未確認ですが、『朝のコント』から4編を採った作品集のようです。54ページ。

◆小牧近江編著のフィリップ短編集
 以下の4冊はフィリップの複数の著作から採られた、小牧近江編の短編集です。直訳ではなく少年少女向けにアレンジが行なわれていまして、ゆえに小牧近江「訳」ではなくて、小牧近江「著」となっています。最も多くの作品が採られているのは『小さな町で』で、計13編。これは4冊ともに収録されています。
 所有しているのは中央公論社版、偕成社文庫版だけですが、未入手の2冊も現物確認済みです。
『小さな町 ルイ・フィリップの本』中央公論社(39)
 5部構成で、「ルイ・フィリップのお母さん」4編、「ルイ・フィリップの友達」10編、「小さな町の人人」6編、「ペルドリ爺さん」1編、「ルイ・フィリップのお父さん」8編。計29編を収録。
『フィリップの本 ―小さな町の人々―』山の木書店(50)
 3部構成で、「一、フィリップのお母さん」4編、「二、フィリップの友だち」10編、「三、小さな町の人々」7編。計21編を収録。中央公論社版から「ペルドリ爺さん」と「ルイ・フィリップのお父さん」がまるまる削除され、「小さな町の人人」6編に「小さな町」が追加されて7編になっています。
『小さな町 フィリップの本』アルス日本児童文庫刊行会・日本児童文庫(58)
 3部構成で、「フィリップのおかあさん」4編、「フィリップの友だち」10編、「小さな町のひとびと」7編。計21編を収録。(山の木書店版と同内容)
『小さな町 フィリップの本』偕成社文庫(77)
 5部構成で、「ルイ=フィリップのおかあさん」4編、「ルイ=フィリップの友だち」10編、「小さな町の人びと」7編、「ペルドリじいさん」1編、「ルイ=フィリップのおとうさん」8編。計30編を収録。中央公論社版に「小さな町」を追加したものです。
小さな町(中央公論社).JPG 小さな町(偕成社文庫).JPG

◆フィリップ全集
 フィリップは、新潮社と白水社から全集が刊行されています(どちらも全3巻)。もちろん『小さな町で』と『朝のコント』も全編が収録されていて――
『フィリップ全集 第一巻』新潮社(29)
 小牧近江訳『小さな町』、堀口大學訳『短篇物語集』(=『朝のコント』)を収録。
『フィリップ全集 第二巻』白水社(52)
 堀口大學訳『朝のコント』を収録。
『フィリップ全集 第三巻』白水社(52)
 小牧近江訳『小さな町』を収録。
フィリップ全集1(新潮社).jpg フィリップ全集2(白水社).jpg フィリップ全集3(白水社).jpg

 以上、まだ完璧なリストではありません。不明箇所(未確認の本)に関して、ご教示いただければ幸いです。
 なお、対訳本も何冊か出ていますが、割愛しました。

【追記】4月3日
『シャルル・ルヰ・フィリップ短篇集』近代文明社(23)は『堀口大學全集 補巻2』小澤書店(84)/日本図書センター(01)に収録されています。ころっと忘れていました。
コメント(4) 

コメント 4

森本浩之

初めまして。
子供の頃読んだ「ずる休み」を思い出して、フィリップを読み直しています
全集には新潮社・白水社版のほかに、
『シヤルル・ブランシヤアル フイリツプ全集 第1輯』
というのがあるようなんですが、ご存じですか?
叢文閣から大正15年に発行され、小牧近江さんが訳されてるようです。
ネットで調べても、この情報はないのですが、「日本の古本屋」では販売されています。
しかし、第2輯以降の出品がないのです。
叢文閣版は、第1輯のみの出版だったのでしょうか?
もし、ご存じでしたらご教授いただければありがたいです。

by 森本浩之 (2023-06-21 10:11) 

高井 信

 森本さん、いらっしゃいませ。
 へえ、そんな全集が出ていましたか。知りませんでした。国会図書館で検索しても第1集だけしかヒットしませんから、第2集以降は出ていないのではないでしょうか。
 お役に立てず、申しわけありません。
by 高井 信 (2023-06-21 12:39) 

森本浩之

ご返事ありがとうございます。
日本標準の小学生文庫「ずる休み・はこ車・うちには子犬が5ひき」(昭和43年・日本標準テスト研究会)を小学生の時読んだのがフィリップとのファーストコンタクトです。今西祐行・羽生操さんの訳です。「子犬」はラストの門番の暴言がまるまるカットです。ヤフオクで見つけて購入し、懐かしさにひたっております。
by 森本浩之 (2023-06-21 21:01) 

高井 信

 おお、小学生のときに! それは思い入れが深いでしょうね。
 子ども向けの翻訳は訳者のアレンジが加わることが多いので、のちに別の訳で読むと、あれ? こんなシーンあったっけ? あるいは、こんなシーン知らないぞ、というケースがありますよね。
 私の経験上、アレンジがうまくはまっていたケースが多かったような気がします。
by 高井 信 (2023-06-22 05:42) 

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