『ハイカラ神戸幻視行』
西秋生『ハイカラ神戸幻視行 コスモポリタンと美少女の都へ』神戸新聞総合出版センター(09)が発売されました。昨年、「神戸新聞」に連載されたエッセイを大幅改稿したものです。
この連載のことはご本人から聞いていましたが、あいにく名古屋在住の私には「神戸新聞」を手にすることは難しく、読むことができませんでした。いつでしたか、「単行本の準備を進めている」と聞き、出版を心待ちにしていたのです。
このブログを読まれている方の多くはご存じでしょうが、西秋生は非常にキャリアの長い作家です。
眉村卓がパーソナリティを務めていたラジオ番組「チャチャ・ヤング」のショートショート・コーナーで活躍。その作品は眉村卓編『チャチャ・ヤング=ショート・ショート』講談社(72)に収録されています(別名義)。これがおそらく西さんの商業出版物への初登場と思います。37年前!
筒井康隆の主宰していたSF同人誌〈ネオ・ヌル〉でも活躍。入選作の1編「マネキン」はSF専門誌「奇想天外」1977年8月号(17号)に転載されました。これが商業誌初登場となるでしょうか。また、筒井康隆編『ネオ・ヌルの時代(全3巻)』中公文庫(85)には、Part2に「マネキン」、Part3に「走る」が収録されています。
〈星新一ショートショート・コンテスト〉でも、第2回コンテスト(1980年)において「いたい」が優秀作を受賞(最優秀作は江坂遊「花火」、早島悟「DOY(ドゥーイ)」)。「いたい」は星新一編『ショートショートの広場2』講談社(80)、同『ショートショートの広場』講談社文庫(85)に収録されています。
その後、SF専門誌「SFアドベンチャー」を中心に作品を矢継ぎ早に発表し始め、『奇妙劇場vol.2 ロング・バケーション』太田出版・OHTA NOVELS(91)といったアンソロジーに寄稿するなど、旺盛な創作活動を見せますが、いつしか長い沈黙にはいります。そのあたりの事情は知りませんが、おそらく本業が忙しかったのだろうと推測します。
井上雅彦監修『ひとにぎりの異形』光文社文庫・異形コレクション(07)で復活するまで、目立った活動と言えば、ショートショート作家『ホシ計画』廣済堂文庫(99)にショートショート2編を寄稿したことくらいでしょうか。
私は『ショートショートの世界』で〈星新一ショートショート・コンテスト〉に触れた際、“「SFアドベンチャー」などに短編を数多く発表していた西秋生も、コンテスト入選者の一人です。昨今は作品発表の機会に恵まれていませんが、復活を望みたい作家の一人です”と書きました(99ページ)。
また、井上雅彦&光文社文庫編集部編『異形コレクション讀本』光文社文庫(07)に寄稿した「《異形コレクション》とショートショート」でも、“西秋生はSF専門誌「SFアドベンチャー」を中心に、数多くの怪異譚を発表した。残念ながらそれらの魅力的な作品群は単行本化されておらず、時の流れとともに忘れ去られようとしているが、その作風は、まさに《異形コレクション》にふさわしいと思える”と書きました(278ページ)。
その〈異形コレクション〉には『ひとにぎりの異形』に続いて、2008年刊『未来妖怪』にも新作を発表しています。
いよいよ西秋生が長い冬眠から目覚めようとしている! ――嬉しいですねえ、ほんと。
おっと。西秋生の紹介が長くなってしまいました。
『ハイカラ神戸幻視行』は、そんな西秋生の処女出版です。あえて「残念ながら」と言ってしまいますが、小説ではなくエッセイです。しかし! 読みごたえは充分。
神戸を巡る芸術家(作家、詩人、画家など)の足跡を西秋生ならではの視点で追う、実に興味深く刺激に満ちた読み物になっています。
ショートショートの見地から見ても、ことに稲垣足穂(本書ではイナガキ・タルホ)の論考は非常に参考になります。『一千一秒物語』を“ショートショートとは異なって、ストーリーやオチはなく、むしろ詩に近い”(23ページ)と書かれていて、これには私も激しく同意します。また、渡辺温のエピソードも紹介されています(172~173ページ)。
ほかにも、「第四章 妖しい漆黒の光芒(探偵作家たち)」では江戸川乱歩、横溝正史、戸田巽、酒井嘉七が採り上げられていて、探偵小説ファンの方々にもお勧めできます。
私個人としては、神戸に15年ほど住んでいたこともあり、楽しさは倍増ですが、それを差し引いても好著と思います。
強烈にお勧めします。ぜひ!
この連載のことはご本人から聞いていましたが、あいにく名古屋在住の私には「神戸新聞」を手にすることは難しく、読むことができませんでした。いつでしたか、「単行本の準備を進めている」と聞き、出版を心待ちにしていたのです。
このブログを読まれている方の多くはご存じでしょうが、西秋生は非常にキャリアの長い作家です。
眉村卓がパーソナリティを務めていたラジオ番組「チャチャ・ヤング」のショートショート・コーナーで活躍。その作品は眉村卓編『チャチャ・ヤング=ショート・ショート』講談社(72)に収録されています(別名義)。これがおそらく西さんの商業出版物への初登場と思います。37年前!
筒井康隆の主宰していたSF同人誌〈ネオ・ヌル〉でも活躍。入選作の1編「マネキン」はSF専門誌「奇想天外」1977年8月号(17号)に転載されました。これが商業誌初登場となるでしょうか。また、筒井康隆編『ネオ・ヌルの時代(全3巻)』中公文庫(85)には、Part2に「マネキン」、Part3に「走る」が収録されています。
〈星新一ショートショート・コンテスト〉でも、第2回コンテスト(1980年)において「いたい」が優秀作を受賞(最優秀作は江坂遊「花火」、早島悟「DOY(ドゥーイ)」)。「いたい」は星新一編『ショートショートの広場2』講談社(80)、同『ショートショートの広場』講談社文庫(85)に収録されています。
その後、SF専門誌「SFアドベンチャー」を中心に作品を矢継ぎ早に発表し始め、『奇妙劇場vol.2 ロング・バケーション』太田出版・OHTA NOVELS(91)といったアンソロジーに寄稿するなど、旺盛な創作活動を見せますが、いつしか長い沈黙にはいります。そのあたりの事情は知りませんが、おそらく本業が忙しかったのだろうと推測します。
井上雅彦監修『ひとにぎりの異形』光文社文庫・異形コレクション(07)で復活するまで、目立った活動と言えば、ショートショート作家『ホシ計画』廣済堂文庫(99)にショートショート2編を寄稿したことくらいでしょうか。
私は『ショートショートの世界』で〈星新一ショートショート・コンテスト〉に触れた際、“「SFアドベンチャー」などに短編を数多く発表していた西秋生も、コンテスト入選者の一人です。昨今は作品発表の機会に恵まれていませんが、復活を望みたい作家の一人です”と書きました(99ページ)。
また、井上雅彦&光文社文庫編集部編『異形コレクション讀本』光文社文庫(07)に寄稿した「《異形コレクション》とショートショート」でも、“西秋生はSF専門誌「SFアドベンチャー」を中心に、数多くの怪異譚を発表した。残念ながらそれらの魅力的な作品群は単行本化されておらず、時の流れとともに忘れ去られようとしているが、その作風は、まさに《異形コレクション》にふさわしいと思える”と書きました(278ページ)。
その〈異形コレクション〉には『ひとにぎりの異形』に続いて、2008年刊『未来妖怪』にも新作を発表しています。
いよいよ西秋生が長い冬眠から目覚めようとしている! ――嬉しいですねえ、ほんと。
おっと。西秋生の紹介が長くなってしまいました。
『ハイカラ神戸幻視行』は、そんな西秋生の処女出版です。あえて「残念ながら」と言ってしまいますが、小説ではなくエッセイです。しかし! 読みごたえは充分。
神戸を巡る芸術家(作家、詩人、画家など)の足跡を西秋生ならではの視点で追う、実に興味深く刺激に満ちた読み物になっています。
ショートショートの見地から見ても、ことに稲垣足穂(本書ではイナガキ・タルホ)の論考は非常に参考になります。『一千一秒物語』を“ショートショートとは異なって、ストーリーやオチはなく、むしろ詩に近い”(23ページ)と書かれていて、これには私も激しく同意します。また、渡辺温のエピソードも紹介されています(172~173ページ)。
ほかにも、「第四章 妖しい漆黒の光芒(探偵作家たち)」では江戸川乱歩、横溝正史、戸田巽、酒井嘉七が採り上げられていて、探偵小説ファンの方々にもお勧めできます。
私個人としては、神戸に15年ほど住んでいたこともあり、楽しさは倍増ですが、それを差し引いても好著と思います。
強烈にお勧めします。ぜひ!
2009-06-25 10:42
コメント(4)
私と西さんは「チャチャヤング」同窓生で、大変に長いつき合いです。今でも親しく交流させていただいていて、酒宴で盃を交わしたりしております。
この本が出ることは、もちろん聞いていました。
ぜひ、読まなくてはなりませんね。
by 雫石鉄也 (2009-06-25 11:38)
>私と西さんは「チャチャヤング」同窓生で、大変に長いつき合いです。
あ、そうですよね。40年近くになるんでしょうか。素晴らしいと思います。
「チャチャ・ヤング」ではありませんが、今年のゴールデンウイーク前、某所にて西さん、牧野修さん、それに私が顔を合わせる機会がありました。この場合、西さんは〈ネオ・ヌル〉同窓生となります(笑)。
私はご両人とも以前から親しくさせていただいていますが、西さんと牧野さんは初対面とのことで、とても驚きました。
by 高井 信 (2009-06-25 15:47)
私もじつは西さんと「チャチャヤング」同窓生なんですが…初めてお会いできたのが昨年のことでした。
神戸新聞をとっているので「ハイカラ神戸幻視行」は連載時から読ませていただいています。今も第二部として「ハイカラ神戸幻視行 紀行編」を連載されています。これも本になるといいなあ。
by 深田 亨 (2009-06-27 01:07)
深田さん。
> 私もじつは西さんと「チャチャヤング」同窓生なんですが…初めてお会い
>できたのが昨年のことでした。
これは意外です。それにしても、こうして見ると、チャチャヤン組ってすごいメンバーですね。
>今も第二部として「ハイカラ神戸幻視行 紀行編」を連載されています。
これは知りませんでした。単行本化されるのを楽しみに待つことにします。
by 高井 信 (2009-06-27 05:16)