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『三十年後』

 星マリナさんより、星一『三十年後』新潮社 図書編集室(15/自費出版)を送っていただきました。ありがとうございます。
 下の画像――左はカバー、右は本体の表紙です。前者はYOUCHANさんの描き下ろし、後者は、『三十年後』新報知社(大正7年刊)の表紙をモノクロ化したもの。
『三十年後』.jpg 本体表紙.jpg
 いやあ、なんと申しましょうか、まさに感無量であります。
 高校生のころ、学校の「図書館報」48号(1975年3月15日発行)に「大衆小説を読む―文学入門のために―」なる読書案内を書きました。全10作を採り上げ、そのうちのひとつが星一『三十年後』です。
>  四、三十年後(大正七年)
> 星一の作。星一は、星新一の父親。星新一が「人民は弱し 官吏は強し」という小説で詳しく書いている。
> 時は大正三十七年、南海の孤島における隠遁生活から三十年ぶりに帰国した老政治家が、社会のあまりに急激な変貌ぶりに驚く話。星新一がタイム・マシンで過去に行って書いたのではないかという冗談すら言われた程の大傑作である。一読する価値充分にあり。
 また、『星新一宝石箱』エヌ氏の会(1976年8月1日発行)掲載の「ファン百家(その七)」には――
> SFMで「三十年後」の復刻版を読んで、オッタマゲタ。大正時代にこんな素晴しいSFを書いた人がいたのかと。
 この時点では、まだ「SFマガジン」113号(1968年10月号)に掲載されたもの(星新一による要約版)しか読んでいませんでした。
SFマガジン113号.jpg 三十年後.jpg
 時は流れ……。「ホシヅル通信」18号(1979年2月20日発行)に「「三十年後」復刻促進運動を!」なる一文を寄稿。
> 今回読んだ「三十年後」は、SFマガジンに載ったアブリッジ版ではなく、正真正銘のオリジナル版だ。アブリッジを読んだのは中学の頃だから六年位前のことになるが、それでも面白く、何とかしてオリジナルを読みたいと思っていた。
 ようやく願いが叶った興奮そのままに書き連ね、最後には――
> そこで、どこでもいいから出版社さん。是非とも「三十年後」(オリジナル版)を復刻して下さい。そして会員の皆さんも、「三十年後」復刻促進運動にご協力を。
 と締めています。まあ、ことほど左様に『三十年後』が好きなのですよね。(以前の記事に「私が初めて『三十年後』を読んだのは高校生のとき、「SFマガジン」に掲載されたアブリッジ版です」と書きましたが、これは記憶違いで、中学生のときに読んだようです)
 20年くらい前だったか、『三十年後』の復刻企画があるという噂が流れてきて、歓喜。しかし、いまになってもその企画は実現していません。
 本当にそんな企画があったのかなあ。ガセネタだったのかもしれないなあ。
 気になっていたとき、北原尚彦さんから別件メールが届きました。ちょうどいいので返信ついでに、「20年くらい前、『三十年後』復刻の企画なかった? 『東遊記』か何かを出した出版社だったような気がするんだけど」と問い合わせましたら、即座に、「『東遊記』(島津書房/1999年)の巻末広告送るよん。『東遊記』しか出なかったんだっぴょー」と画像が送られてきました(こんな文体ではありませんが)。
 さすが、頼りになります。>日本古典SF研究会会長
巻末広告.jpg
 それはさておき。
 何年か前、星マリナさんとメール交換をしているとき、どういう話の流れか忘れましたが、『三十年後』が話題になりました。マリナさんはご存じないとのこと。たまたま「SFマガジン」当該号を何冊か持っていたため、マリナさんに進呈。
 それがこうして結実したわけです。つくづく、情報っていうのはどんどん放出・発信すべきだなあと思います。そのとき必要かとか、相手が求めているかとか関係なく、思いついたらどんどん。何がどう転んで何が起きるかわかりませんから。
 今回の復刻はオリジナル版ではなく星新一による要約版(私が最初に読んだバージョン)で、その点は(個人的には)残念ですが、おそらくこれは星新一ファンのなかでは少数派。多くの星ファンは要約版のほうをより歓迎するでしょう。マリナさんもそれを勘案して、要約版の復刻に踏み切ったのだと思います。
 ええ。オリジナル版だろうと要約版だろうと、とにかく単行本として刊行されただけで充分に嬉しいです。40数年前に雑誌で読んだ作品の単行本化。YOUCHANさんによる美麗カバー&イラスト、さらには巻末資料付き。本体価格1001円という遊び心もGood! 今回の復刻にほんの少しでも関与でき、それも嬉しいです。
 さ~て、数十年ぶりに読むとしましょうか。
 いただきま~す。
コメント(10) 

コメント 10

YOUCHAN

ようやく完成しました~! ほんとに楽しいお仕事でした。高井さんなくては実現し得なかったと、マリナさんも強調しておられましたけろけろり~~ん。
by YOUCHAN (2015-09-09 16:32) 

高井 信

 おお、YOUCHANさん!
 楽しいイラストをありがとうございました。ほんと、新たに生まれ変わった感じです。
>高井さんなくては実現し得なかった
 いえいえ、私はただ、「『三十年後』大好き! 読んでみて」と「SFマガジン」を送りつけ(笑)、復刻を強烈にプッシュしただけです。
 数十年ぶりに読み返して、やっぱり面白かったです。そこかしこにちりばめられたユーモア感覚、大好き。
 ひとりでも多くの方に読んでいただけますように。
by 高井 信 (2015-09-09 16:55) 

高井 信

『三十年後』は自費出版ですから、ごく少数の書店にしか並びませんが、アマゾンでも買うことができます。
http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%89%E5%8D%81%E5%B9%B4%E5%BE%8C-%E3%83%9B%E3%82%B7%E3%83%85%E3%83%AB%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%98%9F-%E4%B8%80/dp/4109100569/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1441933160&sr=8-1&keywords=%E4%B8%89%E5%8D%81%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E3%80%80%E6%98%9F%E4%B8%80
 また一般書店に取り寄せてもらうこともできます。
by 高井 信 (2015-09-11 10:06) 

山本孝一

 私も『三十年後』を読みました。
 SFマガジンで読んで以来、四十数年ぶりの再読です。
どんなお話だったかほとんど忘れてましたが、読み直して面白いお話だったなぁと改めて思いました。百年近く前にこんな楽しいSFが出版されていたとは。
 昔、SFマガジンで読んだときは気がつかなかったのですが、今回読み返してあぁと思ったのは嶋浦翁を出迎える三浦中助という人物の名前です。
 私は落語ファンです。上方落語に『厄払い』という演目があり、節分に厄を祓うときの唄が出てきます。
 「あぁ~らめでたや、めでたやな、めでたいことで払おなら、鶴は千年、亀は万年、浦島太郎は三千歳、東方朔(とぉぼぉさく)は九千歳(くせんざい)、三浦の大助(おぉすけ)百六つ……」というような文句です。
 この長命の三浦大助をもじって三浦中助としたのかなあと思いました。ちなみに、三浦大助いうのは三浦半島の豪族が代々使った名前のようです。
 落語で聴いたトリビアが妙なところで役にたちました。
by 山本孝一 (2015-09-13 11:59) 

高井 信

 これは貴重な発見ですね。
 山本さん、さすが! 興味深い情報をありがとうございました。
by 高井 信 (2015-09-13 14:27) 

高井 信

 ようやく落語「厄払い」を聴きました。おお、確かに「三浦の大助」!
 こういうのって、とっても楽しいですね。
by 高井 信 (2015-09-20 23:37) 

山本孝一

 桂米朝師によると、節分の夜にめでたい文句で厄を払うといういう風習は大正時代の初めごろまではあったのだそうです。
 今は落語の「厄払い」でしか聞くことのない「浦島太郎は三千歳、東方朔は九千歳、三浦の大助(大介という表記もあるようですが)百六つ……」というめでたい文句も、逆に言うと『三十年後』が出た大正七年当時は世間で誰もが知っていたということなのでしょうね。
by 山本孝一 (2015-09-21 09:15) 

高井 信

 私も米朝さんで聴きました。枕で厄払いの説明があり、へえ、そうなんだ、と。
>逆に言うと『三十年後』が出た大正七年当時は世間で誰もが知っていたということなのでしょうね。
 そうなのでしょうね。ほんと、面白いです。

 たぶん関係ないと思いますが、三浦大輔(ハマの番長)というプロ野球選手がいます。現在41歳で現役。寿命の長い選手です。
by 高井 信 (2015-09-21 13:46) 

橋本喬木

遅まきながら、本屋に注文していた本がやっと届いたので、一気読みしました。
それにしても、スゴイですねぇ。飛行機の離発着方法なんて、面白い発明です。
貴重な情報、ありがとうございました。

by 橋本喬木 (2015-10-02 12:04) 

高井 信

 おお、読まれましたか。
 面白かったでしょ。お子さんにもぜひ。
by 高井 信 (2015-10-02 15:44) 

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