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「現代の千一夜」

 スクラップ・ブックを整理していたら、大昔、私が新聞に書いたエッセイが出てきました。
 タイトルは「現代の千一夜」。――「中日新聞」1983年(昭和58年)11月2日号の「回転いす」というコラム欄に書いたものです。
 こんなのを書いたこと、すっかり忘れていました。
 おそらく今後、陽の目を見ることはないでしょうから、ここに転載いたします。(読みやすいように、漢数字を算用数字に変換しました)

現代の千一夜.JPG

    現代の千一夜

 ショートショートと言えば、SF界の長老・星新一氏の代名詞である。その星氏のショートショートが、このほど1001編に達した。
宝石.JPG 星氏が商業誌にデビューされたのは昭和32年、探偵小説専門誌の『宝石』11月号である。作品は「セキストラ」だった。それから26年、ついにショートショート1001編を成し遂げたのである。
 ひと口に1001編と言っても、これは大変な数であって、毎日1編ずつ書いていっても3年近くかかる。星氏の場合、約10日に1編のペース。しかも、そのほかにも長編や短編やエッセーなども書いているのだから、もう大変としか形容のしようがない。
 実は、ぼくが生まれたのは昭和32年7月で、星氏のデビュー年と同じ。すなわち星氏は、ぼくの人生まるまるショートショートを書き続けていることになる。その結果が、1001編!!
 比較すること自体が間違っているかもしれないが、何を隠そう、このぼくもショートショートが仕事の多くを占める作家だ。ぼくの作品が初めて商業誌に載ったのは54年、SF専門誌『奇想天外』の12月号(10月下旬発売)だから、ちょうど4年経つのだが、作品の過半数がショートショートであるにもかかわらず、いまだ50編にも満たない。
 星氏はデビュー後、4年の間に170編も書かれたとのこと。ぼくの4倍近いハイ・ペースである。ぼくが現在のペースでショートショートを書き続けるとすると、1001編に達するのは約100年後。かの泉重千代さんすらしのぐ最高齢者になってしまう。
 むろんそんな年齢まで生き続けることは不可能だし、仮に生きていたとしても小説が書けるとは思えない。(うむ、やはり比較すること自体が間違っておったのだ)
 小説を書き始めるまでは、作品数に関して特別な関心はなかったが、実際にショートショートを書いてみると、いかに大変な作業であるかがよくわかる。400字詰めの原稿用紙に、10枚のショートショートを書くのも、30枚の短編を書くのも変わらぬ苦労を必要とするのだ。1001編なんて、もはや人間業ではない! 本気でそう思う。
SFアドベンチャー.JPG 1001編目の発表の仕方が、また面白い。現在、店に並ぶさまざまな小説誌10誌近くに一度に作品を発表して、どれが記念すべき1001編目か、わからなくする仕掛けなのだ。いかにも星氏らしい趣向と言えるだろう。しかし……。
 残念なことに、1001編達成を契機として当分休筆されるとのこと。ご苦労さまでした、と言うべきところかもしれないが、やはり愛読者としては寂しい気持ちの方が何倍も強い。十分に休息をとってエネルギーを充電し終えたら、ふたたび華々しく復活する日が来ることを切に願っている。
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